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キラキラ

カラスにでもなろうかな。

小学校では成績は常にクラスで1、2を争うほど優秀だった
眞鍋 千歳(まなべ ちとせ)は、地元でも有名な進学校に入学した。
しかしさすが有名な進学校。
小学校のとき成績優秀者ばかりが集まってきたこの中学校にとって千歳は
優秀者ではなく”一般の生徒”だった。

勉強って結構楽だなと思っていた千歳にとってそれは厳しい現実だった。

「千歳、近くにおいしいクレープ屋が出来たんだって!今日行かない?」
放課後、仲の良い女友達が千歳に声をかける。
「行く行く♪」
小学校時代、勉強ばかりしてきた千歳にとってこんな風に
同級生と遊ぶのはとても楽しいことだった。
しかしテスト期間に入るとさすが有名な進学校、みんな勉強一色になってしまう。

― もう頑張っても1番にはなれないし。

千歳はすっかり自信をなくして、あきらめてしまっていた。

そんな千歳に中学1年の夏休みから両親は家庭教師をつける。
「はじめまして」
第一印象は少し怖いお兄さんだった。

有名な一流大学に行っているという19歳の男性、保志野 慎吾(ほしの しんご)は
怒ったら泣いてしまいそうなくらい怖い顔で、昔暴走族の頭していましたと言われても
納得してしまいそうな雰囲気のある人だった。

― 本当にあの大学行ってるの?

千歳は一瞬、かなり人を見た目で判断した感想を心の中でつぶやいた。
両親もよくもこんな怖い人を自分の家庭教師につけたものだとも思ったが
怖い人の方が千歳も勉強する気になるだろうという魂胆らしい。
すっかり成績がクラスで後ろから数えた方が早くなった千歳への
ちょっとしたお仕置きもあったのかもしれない。

― 怖すぎるよこの人・・・。

中学1年の千歳は、保志野とその日1日まともに目を合わせられなかった。

両親の読みがあったのか、元々覚えが早かったからなのか
千歳の成績は、1年後の中学2年の時には、クラスで10位にまで上がっていた。

「保志さん見て!この問題解けたのすごくない?!」

1年間でこの人は怖くないと学んだ千歳は、保志野のことを先生と呼ばずに
”保志さん”と呼んで懐いていた。
「ん?おぉ~すごいな、これ難しいもんな」
見た目とは全く反対で笑顔で優しい保志野は、千歳によく出来ましたと千歳の頭をなでる。
千歳が真っ赤な顔になっている事も気付かずに…。

しかし保志野が大学を卒業すると同時に千歳の家庭教師は終わった。
「今までありがとう」
高校1年になった千歳は、自分の部屋でテーブルをはさんで座っている保志野にお礼を言う。
「こっちこそありがとうな、頑張れよ」
「うん私、保志さんと同じ大学行こうと思うんだ」
「もう大学の話かよ、まだまだ高校生活が残ってるのに」
「そうだけどさ~。でも私が大学入ったころには保志さんいないから残念」
「じゃあ俺が受かった会社に来れば良いよ。まぁ面接官じゃないからヒイキしてやれないけどな」
そう言って保志野は笑う。
「…本気で行こうかな~だって良い会社なんでしょ?」
本当は会社や社会なんてまだ大学にも行っていない千歳にとって実感はないが
大好きな保志野がいるなら自分もそこに行きたいと素直に思う千歳。

「まだ俺入社してねぇけどな、でも先に入社してる先輩と話したけど良い感じだった」
「そうなんだ!じゃあ私が入社するの楽しみにしててね」
「わかった。楽しみにしてる」
そしてまるでまたすぐに会うかのように千歳は
帰る保志野に手を振った。

8年後

「千歳さん!この前の写真どうぞ!」
かわいい後輩が千歳にわくわくした様子で話しかける。
「ありがとう」
そんな後輩に24歳の千歳はにこっと笑う。
「何?何してるの?」
同僚の明愛(あきえ)が、会話に入ってくる。
「先週の結婚式のですよ~♪私、結婚式って初めて出席したんですけどよかったですよね!」
「私も初めてだったよ、すごくよかったね」
千歳が答える。
その答えに後輩は嬉しそうに笑う。
「私も早く結婚したいです!」

「あっ噂をすれば!保志野さんだ」
明愛のその声に千歳は振り向く。
「何してんだ?」
保志野の質問に後輩がハイハイッと手をあげて答える。
「保志野さんの結婚式について話してたんですよ~」

千歳の家庭教師をしていた時から付き合っていた彼女と保志野は結婚した。

「でさ~…って千歳いきなり黙ってどうしたのよ?」
明愛は千歳の顔の前で手を振る。
「えっううん、なんでもない」
保志野もどうした?と千歳を見る。
「写真いい感じに撮れてると思いません?」
千歳は、作り笑いを保志野に向けた。
それが作り笑いだとは気づかず、保志野は千歳から渡された写真を見て
良いじゃんと微笑む。

写真を持つ左手の薬指に光る指輪。
千歳にとってそれはとても眩しく見えた。

カラスにでもなろうかな。

カラスはね、キラキラしているものを集めるんだよ。
だからそのキラキラしている保志さんの指輪を隠してしまうの。
指輪がなければ、私の事見てくれる?

カラスと同じ真っ黒な色の感情を隠したまま千歳は保志野の薬指を見つめた。

END

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